双天のツバサ|001

2020年4月24日

 今日もいつもどおり朝からバイトに向かうため、4時半には起床し身だしなみを整え、まだまだ寒い2月の気候のなか駅に続く道を颯爽と歩く。

 川島翼(かわしま つばさ)は、去年24歳になったフリーターで学生の時からお世話になっているバイト先のカフェで朝から夕方まで働いでいる。

 学生時代は苦手だった早朝に起きるのもこれが2年ともなると流石に慣れる。

 基本的に人付き合いも最小限の翼にとっては、夜遅くまで起きている用事もないし、飲みにいったりすることもない。我ながらこの歳で枯れてしまっているとしみじみ感じてしまう。

 やることと言ったら、スマホでできるかんたんなソシャゲか、据え置きのゲームもRPGなどは好きだが遅くまで熱中することはない。

 学生時代は弓道をやっていて、今でも後輩に誘われれば顔を出す程度ではあるものの、夜にかんたんにジョギングや軽い筋トレをしている翼は、体型は太ってもいないし細いわけでもない。極普通の「青年」である。

 「まだまださっみいなー」

 地元の駅で始発を待っていると、駅から少し離れた踏切がカンカンと音を立て始め、もうすぐ電車が来ることがわかった。

 いつも通り、駅には1人かと思ったが、大学生くらいの若い男性も電車を待っているようだ。

 よく見なくてもイケメンだとわかる姿にそっと気付かれないように視線を向ける。身長は自分が175センチだから、だいたい180くらい。アウターの上からでもわかる太く逞しい腕と、首。髪はすっきりと整えられたショートで黒髪がサラサラ流れている。

 横からだと顔の様子はあまりわからないが、とにかくイケメンなのは間違いなかった。

 自分があまりにもフツメン中のフツメンなのでこういったイケメンに遭遇するとついつい視線を向けて観察してしまう。

 我ながら面食いだなぁと思いつつ、自分の性癖に悲しくなる。

 恋愛対象も、性的興奮を感じるのも同じ同性の男なのである。

 現在の年齢になるまでそこそこな経験はしているものの、実際恋愛にまで発展することはほぼなかった。

 どうしても好きになってしまうのはほとんどノンケの男性で、過去にゴタゴタがあったのも拍車をかけて恋愛まで発展させる気が失せてしまっていた。

 ようやく電車がやってきて自分の前に開かれた扉に乗り込もうと足を差し出した瞬間、扉の中から光が溢れた。

「えっ!? なんだ?」

 心の中で慌てるものの、体が思うように動かない。光に包まれ、目を開けていられない。

 地に足をつけている感覚がなくなり、さらに焦るもののどうしようもない。大混乱しながら数秒が何時間と錯覚するような感覚を覚えながら、しばらくすると光が消えて声があたりから聞こえてくる。恐る恐る目をあけてみると、いつもの電車の中……ではなかった。

 正面には漫画でよく見る王座が2つ、そこに豪華な衣装を身にまとった人が1人ずつ座っている。

 その両サイドには甲冑姿で槍を持った兵士が4人、さらに周りを見渡すと左右の壁際に5人ずつの身なりの良いローブ姿の男たちが立っていて、興奮したように話し合っていた。

 そんな中、自分にもっとも近いすぐ横に見覚えのある横顔を発見した。先程駅のホームで電車待ちをしていたイケメンだ。

 相手もこちらもに気づいたらしく、お互い驚いた様子で顔を見合わせる。

 「どうなっているんだ……?」

 イケメンの低くて戸惑った声がうっすらぼそっと聞こえた。

 「さあ……」

 自分に聞かれたわけではないただの独り言だとわかっていても、そう呟かずにはいられなかった。

 「静まれ」

 玉座にずっしりと威厳のある態度で座っているナイスミドルなオジサマがそう言い放つと、騒がしかったその場が一気に静まり返る。

 やっぱり玉座に座っているのだから王様なのかな? と思っていると、静かになったのを確認してオジサマがそのまま俺らに語りかける。

 「よく召喚に応えてくれた勇者よ。私はこの国の王ハウルと申す。して、2人とも勇者なのか? 言い伝えでは1人のはずなのだが……」

 さらっとそんなことを言うものだから、何かのドッキリなのかと思い隣のイケメンをちらっと見るも目をパチクリさせているだけだ。

 こんな見知らぬ人とセットでドッキリさせても何も意味がない。

 「あの、ここは何処なのでしょう? なんか良くわからないんですが……」

 勇気を振り絞って声を出す。

 「ここはクルセイド国の王宮内、謁見の間だ。近年勢力を増してきた魔王に対抗するため、古来より伝わりし勇者召喚の儀式を行い、君たちが召喚された」

 王様がゲームや最近流行りの異世界召喚小説のお約束みたいなことを真剣に伝えてくる。

 勇者……?魔王……?召喚……? え、いやまじで……? 異世界といえば、超チートなスライムになってたり、特殊な能力がたんまり付与されてたり、魔法が使えたり、ステータスがわけのわからないことになってるアレなのか……?

 「はぁ? クルセイド国って聞いたこともねーよ。ここは日本じゃないのか? なんでも良いけど俺は勇者とかになる気はないからさっさと帰らせろ」

 自分がよく目にしていたアニメや小説の内容を思い浮かべつつどうでもよいことを思案していると、召喚イケメン君が王様ぽい人につっかかりはじめた。

 ギャーギャー文句を言ってもどうしようもないので、現状把握からはじめたほうが良いと感じ、自分からも質問を続ける。

 「あの、どうしても帰りたい場合は、もとの世界に帰る手段というものはあったりするのでしょうか?」

 まずは、ちゃんと元の世界に帰れるかどうかが大事だよね。日本の異世界ものはだいたい帰れないパターンが多かったけど実際のとこは聞いてみないとわからない。

 「帰る手段はないと思っていただきたい。申し訳ないのだが、こちらから呼び寄せる儀式は古来より伝承されておるのだが、帰す方法は伝承されておらん。もしかすると方法はあるのかもしれないが、正直いってわからない」

 なるほど……完全に拉致ですね!某国もびっくりだわ。ほら、イケメン君なんて怒り通り越して青筋ピクピクさせて黙っちゃったよ。

 帰る方法がいまのところないならば、なんとかこの世界でも生きていく方法を見つけて、ながらで元の世界に帰る方法を見つけるしかないのかな。

 もしくは完全にこっちに地に足つけちゃうか。

 「とりあえず勇者かどうか確認させてほしい。タグを用意させたから、1滴血を付けてステータスを確認させてくれんか」

 色々考え込んでいると、王様は先に話を進めたいらしく、少し焦った様子で切り出した。異世界よろしくやっぱり自分のステータスを確認できる手段があるようだ。

 側近の騎士さんが、タグとピン針を持ってきて渡してくれた。なんでもないドッグタグのようで、鉄か何かで出来ているのか見た目よりは若干重い。

 痛いの嫌だなぁと思いながら、意を決して左の親指に針を軽く刺し、ぷくりと浮き出た血をタグに押し付けた。すると、タグがふわっと淡い光に包まれすぐにその光がタグに吸収された。

 「無事に登録できたみたいじゃな、タグを左の胸に当ててみてくれ」

 王様の言う通りに、左胸にタグを押し当てると、目の前にARのようにスクリーンが浮かび上がり情報が表示された。

名前:カワシマ ツバサ

所属:勇者に巻き込まれし者

年齢:24

性別:卵

属性:光

家族:なし

以下、他人には表示されません

スキル:無限弾、フェロモン強、神の守護

 元の世界でも映画などでしか見たことのない目の前に情報が浮かび上がることに感動を覚えつつも、内容を見て唖然とする。

 勇者に巻き込まれし者って……。つまり、俺はオマケか!なんて不運な運命なんだろう。

 それにしても、スキルのフェロモン強ってなんやねん。

 隣を見るとイケメン君がカワシマツバサ? と、なんだか思案げにボソっと呟いていたが、続いてタグを表示させた。

名前:ホンダ ソウイチ

所属:勇者

年齢:20

性別:種

属性:光

家族:なし

以下、他人には表示されません

スキル:???

 あ、勇者様確定した。

 まぁ、自分が違う上に勇者に巻き込まれし者と付けられたんじゃこのホンダ君がそうなのは当たり前か。

 可哀想に……と、自分が勇者じゃないのに安堵もしつつ、こいつに巻き込まれたのかというちょっとした怒りを覚えながら、ステータスを見ていると、1つ不思議な箇所を見つけた。

 性別が違うのだ。元の世界だと男と女だったはずだが、同じ男のはずの俺とホンダでは表示が違う。

 「おお、ホンダとやらが勇者のようじゃな。無事に召喚できて何よりじゃ」

 王様が興奮したように声を上げた。

 そしてに対してホンダ君はかなりげんなりしている。

 そりゃ、いきなり召喚されて勇者として魔王と戦えと言われたらそうだろう。

 すると王様はさらにビックリすることを言い出した。

 「カワシマとやらは性別が卵だが、お主は勇者の恋人かパートナーか?だから一緒に召喚されたのか?」

 『……は?』

 俺とホンダの声がハモる。そして慌てて俺が説明をする。

 「いやいやいや、たまたま同じ電車に乗っていただけで、まったくの他人ですよ!はじめて会いましたし!そもそも男同士じゃないですか」

 必死に釈明をすると、ホンダ君もウンウンと首をこくこく縦に振る。自分はゲイなので、恋人になる対象としては合っているんだが、初見の同性2人を見て恋人ではないのかと疑問に持たれることこそ疑問である。

 そして引き続き異世界に召喚された事実よりもビックリすることを王様は言い放つ。

 「この世界には男しかおらんが……?」

 『はあっ!?』

 またハモる。もうキャパオーバーで、頭が真っ白になっている中、王様は説明をしてくれた。

 この世界では男性しかおらず、その男性の中でも種と卵で性別が別れていること。

 16歳で成人すると卵の性が種の性から種子を体内に取り込むことで妊娠し、子供を産むことができること。

 そしてその性別割合が種90%に対し、卵が10%しかいないこと。

 卵の性は成人以降、自分の毎月の誕生日前後に種の性に対して催淫効果を与えるフェロモンを出すこと。

 卵の性は貴重なので国の許可がないと国外に出られないこと。

 などなど、元の世界では考えられない性設定がこの世界にはあった。

 「とりあえず今後のことは、色々相談させてもらうとして、今日のところはひとまずおやすみいただこう」

 王様はそう言うと、騎士に命じて俺たちを来賓用の寝室ぽい部屋に案内してくれた。

<< TOPへ2へ>>